建築ノート 8




建築ノート 8






先日、帰省した折に、石原君と呑んだ。20代の時に、映写技師の仕事をしていたときの仲間である。石原君とは、大阪府高槻市の映画館で同じだった。石原君が言うには、われわれが働いていた映画館「高槻セントラル」が潰れたらしい。私は驚いた。そして、潰れた原因を聞いて、さらに驚いた。




映画館には映写設備がある。それはかつては映写機とアンプ、返しのモニターであったが、近年はデジタル化が進み、フィルムロールの使用量が減ってきた。なにやら映画データの入った特殊なメモリーチップやら、ディスクをプロジェクターに連動させて、スクリーンに映写することが主流となりつつあるようだ。もちろんフィルム上映もまだまだ健在しているので、映写機も必要である。だが、時代は確実に変わりつつある。映画館サイドは、それら新しい映写フォーマットの動向を受け入れなくては、ロードショーの興行を続けていくことができない。ようするに、新しいスペックに対応した設備投資をしなければならないのだが、今回は、その設備投資ができなかったのが原因で、映画館を潰してしまったらしい。具体的に言うと、新しいスペックとは、オンライン上映とでも言うべきものだ。センターから送られてきた(暗号化された)映画の全データをそのまま、半ば直接的にスクリーンに映写できるというもので、これを実現させるには映画館サイドにオンライン上映に対応する設備投資してもらわなくてはならない、という話である。そのあたりの(ハリウッド・メジャーが世界的に推進している)細かい取り決めに関しては知る由もないが、私は、そのべらぼうな額を聞いて驚いた。不埒なことを言うが、高槻セントラルはパチンコパーラーとカラオケボックスと映画館を合体させた複合娯楽施設で、映画館は、ようするに税金対策をかねて運営されていたのだと思っていた。実際、なにからなにまで優遇されていて、われわれはずいぶんな良環境で仕事をさせていただいたし、支配人の神田さんには本当に感謝している。その映画館が設備投資できない、ないしはそれに賛同できない、という理由で潰れてしまったのである。本当はほかにも原因があるかもしれないが、私が石原君に聞いたのはここまでである。




建築とはなんだろうか。私は、この「映画館が一件潰れてしまった」ということから、今回の建築ノート第2部で、「都市と建築」あるいは「都市における建築の条件」ということを考えてみたい。だが、わたしは建築素人であり、期待はしないでほしい。