★ リンダ逆上 7



■ リンダ逆上、原因究明のためのパズル/パルス 7




「パーン、パーン、ジャンジャカ、ドン、チキチキジャカ、ドン、テクテクドン、ピコピコ・・・パッパラー♪」と、グンカン・マーチのテクノ・バージョンが鼓膜のすぐそばで、いや、僕の頭蓋の内側に張り巡らされている全神経を引きちぎるように、強圧的に鳴り響いていた。それにしても、なんというトーチャーサウンド・・・。正直、パチンコボールをぼんやりと眺めているだけでよかった。そこには確実な何かがあった。この世が蠢いていることの一切、その明晰さの隠喩、そのクリスタル・クラッシュ。起点と旋回線の一瞬の実現。それはコンピュータ操作上でクリックをむやみに繰り返すことよりも高級で、テレパスのパッドに、指腹を控えめにタッチするよりも優雅な動作だった。ぼんやり見ること、ただぼんやりと見続けること・・。だが、玉の動きが速すぎて見えないことに、苛立つわけではなかった。グンカン・マーチ・テクノが、いやが上にも苛立ちを煽った。しばらくしてミスティック・ペイズリー・チェックのマイクロミニスカートをうっふんと着こなしたエロティックな店員がやってきて、「お客様、フロントグラスに息をフッとふきかけると、パチンコボールの動きがスローモーションして見えるので・・・ご覧、お試しあれ。」と、やや偉そうに教えてくれた。フッと、言うところで、まさしく僕の耳もとに彼女がフッと息を吹きかけたので、ドキッとした。ディオールのポワゾンの香りがした。「スローモーションだって?だめだよ、そんなことしちゃあ、せっかくのキスシーンが台無しじゃないか。」僕は『また逢う日まで』が流れている台でヒッティングしていて、ガラスの窓越しに久我美子とその恋人が接吻を交わすというあまりにも有名なシーンの鑑賞を数分後に控えていたのだ。その時ばかりはヒッティングをストップして、二人の唇の熱を遮った冷たいガラス窓、その透明な輝きを目に焼き付けておこうと心待ちにしていたのだ。「いいか、お姉さん、お姉さんは綺麗な人だ。とても美しいプリントのスカートを履いている。だけど、重要なのはシネマだ。シネマあってのパチなんだ。」と、たしなめたのだった。「なによ、この人。シネフィルじゃない?」店員は小ばかにしたような口ぶりで遠ざかっていった。大きな尻が揺れている。そのとき、中森明菜の「スローモーション」が脳内再生され、それは彼女の尻の緩慢な揺れ具合と恐ろしいほど完璧にシンクロした。ヒップは確かにホップしたのだ。ただ、ゆるやかに、なめらかに。「出会いは〜スロォモーショ〜ン〜〜〜♪」。・・・そう急ぐな急ぐな。時間はたっぷりある。僕はお目当てのシーンが見れて満足したので、ヨシ・エンタープライズ品川店を出ようとフロントに向かった。



自動ドアが開くと、「おおい、ちゃんと持ってよー。」と声がした。前方に男たちがヨシのエントランスサインである電飾を両腕に抱え、大型トラックに積み上げているのだった。「いやあ、ロアン・ロアン監督もいくらノーベル映画賞受賞だと言ってもやりすぎだよな〜。」「そうっすね。しっかし、今日から品川上映。急遽SIS導入って、そりゃあ、強引すよねえ。」「だよナ。しかも例の上映中3D撮影やるんだってよ。」「聞きましたよ。それに絵文字をガンガンに入れるってね。」「ほう、映画の字幕に絵文字か。なるほどね。子供の客多そうだな。日曜だし。」「そうすね、売店で売るポップ・コーンも今日は3Dらしいすよ。」「え?!」「・・・どうしました?!」「ポップコーンって、そもそも飛び出てないか?3Dじゃないか?」「・・・そうすか?」「そうだよ。バカ。」男たちのとりとめのない会話が続いた。つい先日までチバ・シティで上映していた『リンダ逆上』がとうとう品川で上映されるのだ。一瞬、ベビー・ルゥに「今日は3Dのポップコーンが食べられるぞ、今から品川に来ないか」とテレしようと思ったが、やめておいた。僕はガラス窓の透明性、その残酷さについてのテキストをフリーディグにしたためておこうと、電子神社の、あの古びたベンチへと向かった。