コンサートノート8




■ Kanako.s  渋谷O-WEST 2015−4−26





それがたんなる消費活動だとしても、「アイドル」と呼ばれる人たちに関心絶無というわけではないし、aikoperfumeに関してはそのアルバムをすべて聞いている。そしてそれ以外に、日頃強力に流行しているものは、U-sen(有線放送)などを通じていやでも耳に入ってくるものだ。(そのほとんどをスルーするにしても)断片的なものであれ、メロディや歌詞がひっかかることもあり、ほんのたまに記憶していることがある。しかしアイドル、彼女たち彼らは、80年代的な意味での「純正アイドル」ではない。90年代半ば以降の、より大きなカテゴリーとしての「J-POP」(日本産大衆歌)の内側に位置づけられる「アイドル」としてこの日本の、アジアの、全世界の商品流通機構のなかで活動している人たちとしてまずは捉える必要がある。(それはそうとキャンディーズが「普通の女の子に戻ります」とマニフェストしたうえで解散したのは1978年のことだった。成田国際空港が開港したのと同じ年である。)




つい先日、Kanako.s (坂本かな子)の活動2周年記念、及び2ndアルバム『Monologue』の発売記念ライブに行ってきた。せっかくなので簡単に感想を述べておきたい。・・・今回は「デビュー2周年記念」というanniversaryでもあり、それはサーヴィスにおいて実現されていた。タンポポを模した片手で気軽に持てるかわいらしい工芸品。kanako.sの顔が(きわめて具象画っぽく描かれた)イラストがプリントされているポストカードがまず受付で配布される。そして中盤より、(TV局の撮影が入っていたためか)演出の小道具として、オレンジ色に光るペンライトが配られた。そしてアフターステージには、直筆サイン入りのポスターがこれまた無料で配られるのだ。過剰贈与?そうかもしれない。しかし、こういった断続的な(うまくタイミングを見計らった)さりげないサーヴィスを受けるのはごく単純に言って嬉しいものだ。




kanako.sについてのプロフィールはウィキペディア、彼女のウェブログなどを参照してほしいが、彼女のヴォーカルをバックで支える、ある種の日本のポップス、ロックシーンにおけるツァイストガイスト(時代精神)を支えたであろういくつかのバンドにはあらためて記憶に留めておいていいのかもしれない。元remoto、そして元ストリートスライダーズ、そして元ジュディ&マリーのメンバー(楽曲によっては他にも?)で、作詞陣には元プリンセス・プリンセス富田京子までもが参加しているのだ。なかでも元remotoのベーシスト愛川ヒロキは、ニューアルバムの12曲中7曲を作曲担当しており、kanako.sの音楽的な要といえる存在だろう。




素人目で観てもわかることだが、まずリズム隊(ベース、ドラムス)がしっかりしていたし、ギターのミスタッチもなかったように思う。そしてこういったロック、ポップスよりのライブではキーボードやエレクトリックピアノの音がやや沈みがちになるものの、しっかりと聴き取れたのも良かった。そして照明。kanako.sは2時間ほどのステージングで2回衣裳を変えた(つまり3種類の衣裳を披露した)のだが、色彩のヴィヴィッドなコントラストを損ねないきわめて正確なライティングで、おとなしく沈着することもなく、だからといって闇雲に盛り立てるものでもなく、好感が持てた。加えて、昨今ではステージングでプロジェクターによる映像を取り入れる手法は珍しくないが、kanako.sの幼少期よりの記憶を追ったメモリアル映像もなかなかよかったし、会場にいあわせた実際の両親にたった今マイクを握っていた娘がカップル向けの腕時計をプレゼントするというサプライズも心にくい演出だった。あと、車椅子の人たちへの配慮もあったし、一見なんてことのないライブステージではあれど、実際居合わせてみないとわからないことだらけなのだ、という感想を持った。




かくいう私は、ライブの曲間に、調子にのって軽ノリでグッズのカレンダー(4月はじまり)を購入したのだが、それをカバンにしまいこむ際にビールを半分くらい床にこぼしてしまった。が、そばにいたスタッフが早急に対応してくれて、そのうえ、「滑らないように注意してくださいね」と、ジェントルな声をかけてもらったのも、プラスの印象に残った。




とはいえ、そもそも知己を得ているベーシストの愛川さんからのインビテーションがありゲスト入場させてもらった身としては、こういうやたらな感想をオープンにするのではなく、黙って見守っているのが、本筋だろう。なので、(特に)楽曲の如何を云々することは控えたいし、それは直接愛川さんに伝えようと思う。・・・それというのも福岡から出てきた25歳の華奢で小柄で愛らしい歌い手を、全身全霊をかけてバックアップする大人たち元バンドマンたち、ファンたち、という現場にいて、そしてそのすばらしいライブパフォーマンスに立ち会えて本当に良かったと思うからだ。(4月28日)