めっぽう品揃えの悪い紀伊国屋書店笹塚店で『制作』という、味も素っ気もないタイトルが気にいって手にとって見た文庫本は、表紙にセザンヌの『水浴する男たち』があしらわれていた。著者はエミール・ゾラ。本を開いて見ると最初のページには紙にマネの描いた「ゾラの肖像」が印刷されているのだが、言わずもがな、ゾラさんがすました顔で椅子に座っているのが描かれている。そして、すましたゾラさんの背後の壁に小さめのフレームに描かれた直立したおっさんの絵が架かっているのを認めたのだが、その上ダメ押しでその隣にマネ自身の絵である「オランピア」が並列的に架かっているのを認めた時に、「これはゴダールの『映画史』の中にゴダールの映画が自己引用されているようなもんだろうか。」と思わずにはいられなかった。それでもゾラさんはすました顔のままだった。帰宅し、第一章だけ読んだ。極度の女嫌いと思わしき画家の話。「いらだち」とか「いらだつ」という単語がけっこう出てくる。