■ ソフトな会話  証明写真箱 3  焦りの自己証明



茶店カップル、ダベっている。



●「あ〜、もうかったるいな〜、就職活動。」
△「つーか、もう、いいじゃん、仕事なんかしなくても。」
●「ダメ、ダメ、つうか、そんなこと言って面倒見てくれんの?アタシの?」
△「やっぱ、今の時期ってけっこう厳しい感じか?」
●「私もう、落ちまくってんだよね〜。マジで。・・ね、ね、なんか面白い話ないの?ほら、もう、梅雨だから、湿っぽくて湿っぽくて。・・あれっ?、ヘッドフォン、焦げてない?」
△「そうそう、これ焦がしちゃったんだよ。」
●「ええ?なんで?っつーか、これアタシのなんだけどお??!!」
△「そ、そうなんだよ、それでさ、今日はミヤヤに謝ろうっと思ってさ。呼び出したわけよ。ベローチェに。」
●「ま、いいんだけどさ、一応聴けるんでしょ?」
△「うん・・・ほら、オレってさあ、部屋でも、こう・・・大音響で聴きたい方なんだよね、音楽。そんで、まあ近所迷惑だからヘッドフォンでってなるんだけど。」
●「え?音量デカ過ぎて、焦げたの?マジで?」
△「んなわけねーだろ。」
●「ほんっと、バカね、あんたって。冷やせばよかったじゃん。」
△「・・・・ところで、・・あれ、これ言ったっけな・・・ボウイのビー・ブルーっていう曲知ってる?」
●「知ってるよ、また、ビー・ブルーの話?」
△「じゃららじゃららじゃらら♪って、前奏始まったとたんにさ、・・・おれ、ハっと、なるんだよね。」
●「それも、聞いた聞いた、あんたの存在証明の歌なんでしょ?」
△「そうそう、自己証明っつーかさ。・・・・あれ?これミヤヤに言ってなかったけな。もうね、オレのハートに超ビンビン&グワングワンくるわけ、ビーブルー・・・聞いてる?」
●「・・・」
△「・・ほら、サビの部分あるでしょ?」
●「・・・オーマイ、なんちゃんらかんちゃら♪ってとこでしょ?・・・盛り上がり?」
△「そうそう、オレさあ、あそこらへんで、タバコに火つけちゃうんだよね。そんで、目つむって、こう、なんつーかさー、オレの存在の自己証明つうか、自己の存在のオレ証明っつうかさ、ま、そういうこと、考えたりするんだよね。祈り?っつーか。天に向かって、プハー、そして祈り、みたいな。」
●「あれ?前は踊ってるって言ってなかったっけ?じゃないの?」
△「超ノリノリで踊ってんのは、そのオーマイなんちゃらの前よ、サビに入る前。で、サビが近づいたら、こう、タバコをさ、ゆうっくり吸いながら、目つむってこう、なんつーかさ、夢見てんのよね。オレは最高の最低のベストとか、・・オレはデンジャラスにしてハッピーベスト・・・とか、なぜか、毎回そういうパターンになってるわけよ。」
●「あ、そこまで思い入れあるんだ。ビーブルー。」
△「でさあ、こうじっと目つむりながら、じっと歌詞を聞きながら、ああ、なんていい曲ビーブルー・・・って胸をシンシンジュンジュンさせてるわけよ。・・・わかる?」
●「そういうのわかるよ。私の場合だったらあ・・・恋人はサンタクロー♪とか」
△「・・・でさあ・・・あれ?・・・なんか焦げくさ・・焦げくさくね?ってハッと目あけたら・・・これ・・・・こういうふうにヘッドフォンが・・・・煙草の先っちょがね、・・・こーいうふうーにヘッドフォンのコードにちょうど、あたってて・・・・・ひゃやああ!って超ビックラこいて!アブねアブね、火事だ火事だビーブル、ビーブルー、冷静に冷静にって・・・御免!ミヤヤゴメンね、弁償するから。・・・」
●「・・・・」
△「・・・・」
●「あたしもさあ、・・・アンタのコーフンしすぎのビーブルー自己証明話で思い出したけどさあ。」
△「え?ミヤヤもなんかあったの?」
●「そうそう、超〜ムカつくんだよね。あの証明写真箱っ!」
△「マジで??なんでなんで??」
●「つーか、これ、言うのも恥ずかしいんだけど。」
△「んだよ、いえよ、オレも言ったんだから。」
●「あのさ、知ってる?今の証明写真箱ってさ、撮り直し何回できるか知ってる?」
△「え、3回くらいじゃなかったっけ?」
●「今ね、5回できんの。だいたい。」
△「へえ、そう。」
●「んで、まあさあ、ふつうさあ、ま、5回あれば、まあまあ、納得いくっつうか、使える写真撮れんじゃん?」
△「そうだな、え?っていうかなんで?・・・ミヤヤ、ミバいいじゃん?けっこう。」
●「で、アタシもさ、自信ないわけじゃないよ、まイケるでしょ、フツーにって思ったのね・・それが・・・1回目バシャって撮ってえ、それ見てえ、・・・ヤバっ、何これ?ってなるわけよ。」
△「ハッハッハッ!誰これ?って。」
●「そうそう、ちょっと、この目つき、ヤバくねー???ってなるのよね〜。」
△「・・・え?その画面ってどこ写るわけ?」
●「前よ、前、何?、レンズあるとこのガラス??」
△「そうかそうか、じゃあ、こう正面にバシっと出るわけだ。」
●「そうそう、撮った瞬間にね、写真がビシャっと凝固するわけよ、わかる?ギョーコ。」
△「わかる、わかる、急にピタって静止するんだよね、あれ。」
●「でね、ま撮り直しできるし〜って、撮り直しボタン押すでしょ?ま、5回できるから、あと4回でなんとかなるわってなるでしょ?」
△「うんうん。」
●「そんで、ゆーっくり、落ち着いて・・・バシャって撮って、はっと凝固を見たら、またヤバッ!!キエー!!??誰これ!!??ってなんのよ。目もヤバいしイ、なんつーか、めちゃ、変な顔なわけよ。ガーン、これ使ったら、もう100%落ちるでしょって顔。」
△「はっはっは!!」
●「で、さすがに3回目は、ちょっとこう、椅子の高さとかさ、クルクル手動で回るんだけどさ、調整しなおしてー、髪型も整えてー、ネクタイも揃えてー、よっしゃー、って撮るわけよね。」
△「で?で?」
●「でね、3回目撮ったの。・・・まあまあかな、あ、これいいじゃん。これで行こうかな。これ、いいわあ。って。」
△「へえ、ま平均的じゃないの?3回で。」
●「んだけどー、いや、ちょっとこれ、よく見ると眉間に皺寄せてない???ってなって・・・面接官によったら、これヤバいな・・・微妙に挑発顔って思われるな、って・・・しかも挑発顔のくせに、口笑ってんじゃん、これ。えっ、何これ矛盾してんじゃん顔が!ってなってえ・・・そんで驚くべきことに、写真箱の機械がね、突然<アト3分デス>とか言い出すのよ。まじで。」
△「そうなんだ。リミットあるんだ。」
●「もう、激焦りしちゃって!」
△「じゃあ、そこで諦めたんだ。」
●「そうはいかないわよ。・・・なんだかねえ、人間って欲張りよねえ。・・・で、メイクしなおす暇ないでしょ?証明写真箱んなかで・・でさ、ちょっと気が動転しちゃってホッペをさ、指でつまんで、グニュグニュ超ほぐしまくって、深呼吸ハアハアゼエゼエやってえ、もうこれで決めるぞ!!って・・もう一回バシャっ!」
△「・・・で?」
●「・・・・悲惨なの・・・・ほんとうの私はどこにいるの??ってなるの・・・本当の私の顔は?・・・はやく証明してよ機械さん・・・ってなるの・・・」
△「そうか、ミヤヤ神経質すぎんじゃないの?ほら、写真よりさ、実物の方がいいっていうケースの方がいいじゃん。」
●「あっそっか!!じーつーはー、超ビジンでした!!!みたいなっ。」
△「っはっはっは。そうそう、逆のケースでさ、あれ?君、写真で騙してたの?っていうのは逆効果だと思うよ、それよりかは、いいんじゃね?」
●「そっかー。」