音楽ノート 6

■  DCPRG    「CATCH 22」





菊地成孔がヘッド・ビルダー、あるいはコマンドを務めるDCPRGの『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』(UCCJ-2095)1曲目に収録されている「CATCH 22」は風変わりなトラックである。





「アイアン・マウンテン第2報告 アメリカ合衆国」と題されたこの奇妙なアルバムは、今年、つまり2012年3月に、あの「IMPULSE!」レーベルより発売された。しかし、その時点から、はやくも3ヶ月近く経っており、リスナーはひととおりの感慨を得て、このアルバムを聴きなおしたり、聴きなおさなかったりしていることだろう。遅ればせながら、私もいちファンとして感想を述べておきたい。





まずは、このトラックが備えている面白さ、奇矯さ、interestingにしてstrangeな感興を自分なりに検証してみたいと思う。







多重周期構造。このトラックを特徴づけるのは、これである。英語で言えば、structure of multi layerd circle とでも、あるいはlooping of multi layerd structureとでも言えばよいのかどうか?は知らないが、特徴的なのは、この構造を顕著に、あからさまに採用していることであろう。







多重周期構造、これを説明するのは簡単である。今はもう、あまり見かけなくなってきているが、アナログ時計を例にだそう。(菊地成孔がパーソナリティを務めるラジオプログラム「粋な夜電波」においては、デパートのおもちゃ売り場で売られている楽器を鳴らす複数のおもちゃ、たとえばシンバルを鳴らす猿たち、などがあげられていた)。







アナログ時計、この場合、まず構造基体となっているのは文字盤である。文字盤は、1日を24に分割し、24をさらに2分(12×2)に分割した時間の表象システムを物質化したものであり、さらには、1時間を60に分割した1分、そして1分をさらに60に分割した1秒に、時間を分割している表象である。







時、分、秒、それぞれの同時発生を物質的に表象=代行しているのは、いうまでもなく、長針、短針、秒針の3針となるが、いうまでもなく、われわれは、この3針を一見して、(イギリスのグリニッジ天文台を基準にした)「今の時間」を形式的に知ることができる。この場合、三重化された周期が構造基体(文字盤)によって実現されている、と言える。長針を、たとえばドラムスに、短針をベースに、秒針をギターに喩えて聴いてもらえればいいのだろうか。そして、周期、というからには、どこかのポイントで重なりあったり、そして再びズレあったりすることをある種の「聴取の快楽原則」として実現化していることに、このトラックのメインポイントがあることは言うまでもない。







とはいえ、われわれが隣人に「今、何時?」と聞く時、暗黙にこの三重周期構造を前提している、といえば、そうではない。ようするに「時間を知りたい」だけなのだ。同じように、われわれはたんに「音楽を聴きたい」と思っている。そして「なるべく良い音楽を聴きたい」と。






さて、聴いてみよう。まず大谷能生(おおたによしお)というパーフェクトなまでに名前の母音性 vowel を体現した、男性のラップヴォイスから始まる。「グッド・モーニング、HEY CAPTAIN AMERICA 聞こえますか?」という単音のコールで入り、わずか0、3秒後に、一気に、いや、雪崩れ込むように、リズムセットがドロップされる。






このリズムセットの開始と同時に、大谷能生 MC YOSIOは、「気の狂った指揮官〜」から開始される<反−ドメスティック>なリリックを武器に ALTER WAR もうひとつの戦争のコアステージへと猛進してゆくのだ。(リリックのステージはありとあらゆる意味において戦場である)。







この時点で、すでに多重周期構造は開始されているが、すぐに気づくのは音域の幅、ベースの重低音とキーボードの高音がその幅を一定的にとりもち、そしてMC YOSIOのラップヴォイスがその音域のガラスを割るようにして、リスニングエリアに突き刺さってくるということだろう。(その母音性 vowel の高い名前、「おおたによしお」に反して、強烈な子音、「KI」音を基軸にした、リリックだ。キャッチを、その通り発音するよりも、キヤッチと発音することによって、逆に「KI」音が強調されて聞こえる、という特殊技法?)  


つづく