エプロン


十時に起きた。なぜか、昨日の寝しなに「明日はエプロンを買いに行こう」と決めてかかっていたので、フロに入って、さっさと身支度して部屋を出ることとなった。大きなサイズの街に出かけるのも面倒なので、小さなサイズの町、仙川まで歩いて出た。歩いていると喉がカラカラになってきたので、まずはスターバックスで喉のカラカラをなんとかしようと思い、入った。「今日のコーヒー」を頼むために、「今日のコーヒー。」と発音した。対応がぎこちない。何がぎこちないかといえば、硬貨をもらう手と、お釣りを渡す手が微妙に震えているのだ。彼は新人くんなのか?店内は非喫煙者やら、受験生やら、寒がりの人々で一杯だったので、「今日のコーヒー」を外でのむ。ううん、なぜかとてもすがすがしい。冷気が肌に心地よい。「しかし、換気の悪い部屋で煙草を吸い、紅茶をのみ、胃が荒れまくっている状態で朦朧と、考えごとをしてもよろしくないな、やはり外というのはいいもんだな」、と一人合点する。目前のありふれた光景をありふれた光景なりに堪能する。なにがありふれているかと言えば、まず壁がありふれている。なんの変哲もない特徴のない色の壁である。(ベージュでもなく、白でもなく、オフホワイトでもなく、灰色でもないが、しかし、そのすべてを含んでいる色といえばよいか、こう言うとありふれていないと思われるかもしれないが、実際十分にありふれている)。そしてゴミ置き場。これもありふれている。そしてカラスよけネット。これもありふれている。「いや、しかし、まるでありふれた光景だな、」と思っていたら、これまたありふれた男が、隣のテーブルに座った。隣の男も一人だ。ぼくも一人だ。ぼくも隣の男から見れば超ありふれている人間に違いない(まあ実際十分にありふれているのだけど)。隣の男をちょっと緊張しながら、たまに流し目を送って観察していた。彼は携帯の画面をチラチラ見ていた。すごくイライラしているようだった。彼女さんがこないのだろうか?ぼくも隣の男にならって携帯の画面をチラチラ見てイライラしているふりでもしようかなと思ったが、やめておいた。なぜなら、人の真似をするのはよくないと思ったし、携帯の画面に何の用もないのに、携帯の画面を見るのは不自然だと思われたからだ。