阿木譲

阿木譲を思い出した。
確かWHOOPEESという八坂にあるライヴハウスでちょくちょく遊んでいた時のことだから、10年以上前に遡る。ライブハウスやクラブという場では、時に見知らぬ者に声をかけたり、かけられたりしていた。まともなコミュニケーションなど何ひとつなく、大音響とアルコールに痺れた脳髄を、それと意識する暇もなく、ニヒリズムの大洪水を待ちながら、確かに何かを夢見ていた。寝そべりながら、せんべいでもかじりながら夢見ていた。そんな時期だ。

もう名前も顔も忘れてしまったが、阿木譲の店で働いているという男が私に声をかけてきた。数ヶ月後、阿木譲に会った。ベージュの燕尾服のような素っ頓狂な形のコートを身にまとい、サングラスをかけていた。長身だった。高校の時、友人の兄貴だか姉貴だかから借りていた「ROCK MAGAZIN」(表紙は合田佐和子のイラストだ)が僕の部屋にあった。よくわかんないことがいっぱい載っていたので、それをわかろうとして、貪るように読んだことと、「バロウズブック」という本に載っているテクストは退屈だったことを阿木譲に告げると、彼はにやにやしていた。それから何の話をしたかは忘れた。だが、会話の途中で彼が「最近の男は色気がないね〜。」と言ったのだけは妙にハッキリ覚えている。その数ヵ月後、CAFE BLUEという大阪にあるクラブで上映会をした。CAFE BLUEはもうなくなったと、数日前、ある人から聞いた。今は「NU JAZ」というクラブを大阪でやっているらしい。