十字路で

昨日はポカポカしていた。スケッチするわけでもないのに、スケッチするかもしれないと思い、スケッチブックを抱えてロケハンがてらに蘆花公園あたりまで歩いた。ふさわしい場所はみつからなかったが、一ついい光景に遭遇した。南烏山をすぎた、わりと閑散としたあたりでのことだ。十字路の手前で道路を渡ろうとしたら曲がり角の20メートルくらい先から車がやってきた。ドライバーは左右確認せず、つまり、これから渡ろうとするぼくの方を全然注意していなくて、その車が曲りたい右方向にドライバーは首をずっと向けていた。「危ないなあ」と小声で呟きながら、車が通りすぎるのを待っていると、工事現場の警備をしていたおばさんが「待った」とばかりに、たったっとやってきて車を止めた。そして運転手の方に周りこみ、こう言った。「危ねえだろ!歩行者がいるのに、あんた見てねえのか!」。運転手は「見えなかったんだよ!」と返した。「見えなかったっつうよりも見てなかったんだろ!」と、再びおばさん。ぼくは、おばさんの声があまりにも大きく、威勢がよかったのでびっくりしたのだが、結果的に十字路を渡ることができたので「まあいいや」と思い、二人の言い合いを無視して先を急いだ。しかし、10メートル、20メートル離れてもおばさんのデカい声が後ろから聞こえてくる。さすがに30メートル、40メートル離れると、声が小さくなってきた。100メートルほど遠ざかり、気になって振り向くと、まだ二人は言い合っているようだった。ぼくは二人の現場にもどって、「そんな喧嘩しないでくださいよ。いんですよ、ぼくは渡れたんだから。」と、告げにいこうかと思ったがやめておいた。