読書ノート14 『ルポ 京アニを燃やした男』日野百草


 

 


『ルポ 京アニを燃やした男』 日野百草

 

 

f:id:imagon:20210910151836j:image

 


 (以下Twitterより転載)

『ルポ 京アニを燃やした男』(2019.11.30初版)一気に読了。事件が同年7月18日なのだから、4ヶ月ちょいでこの書を上梓したことになる。北関東〜京都という犯行ルートを自身の足でトレースしつつ聞き取り行い、再録してあるが、良くも悪くも事実列挙に終始。(9月10日)

 

あと、宮崎事件以降のアニオタバッシング社会を奇跡的に塗り替え、国是のクールジャパンにまで昇華させた「京アニ」、というストーリーがあるらしいが、アニメ文化にぜんぜん興味無いおれみたいな読者を想定して書いてるのかというと、そうではない。著者のアニメ愛からくる主観が強すぎと思った。(9月10日)

 

 

(以下会話形式による感想)

 

◉上記のTwitterの転載は二つ矛盾していると思うんだけど?

◼️どういうこと?

◉前のツイートでは主観を廃して著者が書いている、つまり事実に即応した虚飾なき客観的な記述だから、かえってつまらない、とし、後者では客観的な記述ではなく、著者のアニメ愛(というよりも京アニ愛)が主観的に突っ走っていて、そこが記述としてダメだ。と。

◼️そうかもしれないね。ただ、全体的に内容が薄いとは思ったよ。わずか4ヶ月の間に作られた本だから、行動的にはものすごい早いと思うし、事件直後に週刊誌やらの記事を隈なくリサーチしてないと現場ルポルタージュは成り立たなかった、しかしその行動力によって犠牲にしたものはたくさんあったんじゃないかな。末尾あたりに犯人の青葉真司とナチスドイツのホロコースト担当だったアイヒマンを並列的に扱って、国家犯罪と個人犯罪という全然次元の違う話なのに、とってつけたようにアーレントの引用なんかを堂々としている。(↓)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

誰も、すべて人類も、

君とこの地球上で生きていたいとは思わないだろう。

これが君の処刑されなければならない、

その唯一の理由である。

ハンナ・アーレントイェルサレムアイヒマン

Hannah Arendt 『Eichmann in Jerusalem』 (Viking Adult. 1963)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◉なるほど。一応日本は法治国家ではあるけど、そうであるがゆえに法による治安の外部というものが出てきてそれは中央集権性と周縁性に対応している。

◼️え?どういうこと?

◉中央を皇居にするか、永田町にするか、まあどっちでもいいんだけど首都東京とその辺境である関東北部、しかし、都内に出てくるにはそう不便であるというわけではない周縁ないし辺境があってそのあたりに犯人は住んでいた。

◼️かつてロラン•バルトが皇居のことを「空虚な中心」と規定したけど、今やもはや「空虚な中心」がさらに空無化してそれと呼応するような「空虚な周縁」しかない、と言えるかもしれないね。

◉90年代のグローバリゼーションを起点に日本のある種の企業は、アジア圏からの労働力に頼らざるを得なくなってきたんだけど、そういう辺境にこそアジアの人的資源が集中している。しかし青葉が茨城の雇用促進中住宅に住んでいた頃はもっと殺伐としていた、と、著者は伝えているんだけど。

◼️そうね。その雇用促進住宅で大音響で音楽鳴らして周囲に迷惑かけまくりっていう記述が、、、

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しかし老人の証言による騒音のことは近隣住民はもちろん、アパートの元住人からも聞くことが出来た。

近隣のアパートで一人暮らしという男性。「実はあの音のおかげで引っ越したんだ。 本当に凄い音で、壁が揺れた。 いくら警察が来ても止めないしこっちが出ていくしかなかった」文句は言った?「そんなの怖くて出来ないよ、あんな音出す大男」 その音の正体は家宅捜索により明らかとなった。なんと青葉は、アメリカの高級オーディオメーカーBOSE(ボーズ)の大型システムをアパートに導 入していたのだ。それもキャノンウーファーというバズーカ砲のような代物で 長さは2メートル近く、重量25キロ超の本体から重低音を響かせる、基本はラ イブ会場などで使う業務用である。またスピーカー本体も青葉はBOSEで揃え、901SSというこれまた業 務用の大型スピーカーであった。83p 執筆

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◉恐ろしい男だね。この時期に統合失調症生活保護で暮らしていたのかどうか知らないけど、大音響によって回復される何かがあったんだろうね。

◼️大音響はカタルシス→陶酔→自己陶酔という危険な生理的現象を伴って、そこで誘発してしまう忘我的高揚感って必ずあるとは思うけど、それが一瞬にしてサディズム宗教に転化して音楽が黒魔術が結びついたりしてきた、という歴史もあるにはあるしね。

◉そう、その記述を含めてのことだけど、青葉には取り立ててアニメオタク的な要素がなくどちらかといえば、ラノベ作家として自己成就したくてしたくてたまらないフリーター、というどこにでもいそうなタイプだった。どんな音楽をかけてたのか知らないけど、周囲に迷惑かけるほどの大音響聴取とラノベ作家志望ってそれこそ「統合」を失調している行為、かもしれない。

◼️しかし、若い頃アニメ映画はたまに見たんだけど、僕が青年期の頃はとりあえずAKIRAが流行して、その後指標的にはエヴァンゲリオンかなあ。なんとなく小室哲哉グループからAKB48に至る文化現象とエヴァ京アニのブームとパラレルだったような気がするな。

◉アニメに詳しい人がよく言ってたけど、アニメのセル画を描く仕事ってほとんどが中国の下請けに外注してて、純国産のジャパニメーションなのに、エンドクレジットに「〇〇公司」とか結構出てきてて、腑に落ちたのを覚えているわ。それもグローバリゼーションというイデオロギーが後押ししてた。

◼️宮崎勤の事件は1988-89年だけど、あの時はアニメ番組でもアニメ映画でもなくて、もっと文化からかけ離れた「くりいむれもん」なんかに代表される「ロリコンのエロ」だったような気がするんだけど、「京アニ」のような具体的な対象がなかったよね。

◉宮崎の事件は犯罪の対象がリアルの幼女であって、過度のエロティシズム追求の果てに出てきた犯罪でしょう。二次元まんがと三次元リアル幼女の混同から起こっている。しかし宮崎も東京の周縁である奥多摩住まいだったよね。奥多摩にこもってバルチュスみたいな絵描いて満足してりゃいいものの。

◼️今回の事件が起こったのはもうすでにネットやSNSを誰もがやっている時代で、何でもかんでも調べられて、京都に行くのにも京都駅降りてからも意外にすんなり行けたんだろうね。

◉そうね。これはジブリの映画も含めてのことだけど、アニメ流行りの結果として「聖地巡礼」というアニメファンの痴呆性と地方おこしが合体したカルチャーがあるんだけど、観光の順番が転倒しているのね。観光客はそういう転倒性というか倒錯を楽しんでいるんだろけど、青葉はそんなものとは関係なく、ひたすら台車に乗せた携行缶を宇治駅から六地蔵駅まで運んだ。という記述があって驚いたんだけど。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(略) ただしこの先に『響け!ユーフォニアム』の北宇治高等学校のモデルとなった京都府立菟道高等学校がある。私はバスを待つくらいならと歩いて登ったが、高台だけにこれが大変な坂である。ちなみに『響け!~』作中での最寄りは黄檗駅ではなく二駅先の六地蔵駅、事件のあった京都アニメーション第1スタジオの最寄り駅である。私は青葉がそれまでに聖地巡礼をしたことがあっても、この時は主目的として巡ったわけではないと考える。あくまで目的は京都アニメーションを攻撃することである。『響け!~』の舞台であったために聖地巡礼とルートの一部は 重なってはいるものの、それは同地を舞台にした作品なので当然である。それにしても驚くのは、青葉が宇治駅の近くのホームセンターKで台車と携行缶を買って、六地蔵まで歩いたことである。 携行缶は何度か小分けに買って いる。それで大男が台車に携行缶を載せて延々歩いていたわけだ。実際にその 姿は防犯カメラや住民の目視で確認されている。決して平坦ではないし、運動不足の私は青葉の足取りそのままに歩いてみたが起伏もあってうんざりした。

宇治 95p

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◼️この辺りではかなりの興奮状態なんだろけど、京都伏見の六地蔵というところはなんとなく商業地でもなく辺境でもない、なんか不思議な中間地帯で、東山山麓を南下して桃山御陵のあたりから急降下して行くんだけど降りきったところが京阪桃山南口でその次が六地蔵。外環状線が通っているところで通りの両脇にぼんやりした池があったりしたのを覚えてるな。要は京都市宇治市に挟まれた非市街地。まあそれなりに人は住んでる。

◉ふうん。そういうところを青葉は台車引いて京アニに向かった、と。

◼️そうだね。しかし、事件後の騒ぎとは別に国内的、国外的に支援金がものすごい額面集まって、それ自体はいいことなんだろうけど、それほど素晴らしいアニメ作ってたのか?というのは個人的にまったく検証していない。検証した?

◉うーん。見る気がねえ。なんだろ。アニメによる人間の表象って正直いいなって思ったことないな。漫画だったらあるんだけど。

◼️どうしてかね、所詮アニメだし、みたいな・・

◉大人になって、何をいまさら感が・・

◼️それもあるね。クリエーションする方は面白いのかもしれないけど、観賞の対象とは決してならないよな。この緑のディティールがどうのこうの、光と影の具合がどうのこの、とファンたちは言いたいんだろうけど、

◉中国の労働力に頼っていた雑なアニメ時代との差異化をまず確認したいつうのはあるんじゃないかな。

◼️まさにその差異化がアニメをオタクから引き離していったんだと思うし、それはそれでアニメ文化のバージョンアップにつながったんだろけど、やっぱり事件後のネット界ではオタク蔑視みたいな書き込みは多かった、との記述もあった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ただ青葉が「オタク」であるという報道はかつての報道、昭和期の宮崎勤事件のような決めつけ報道はなされなかった。唯一、2019年7月1日付の日刊スポーツの「オタクっぽい感じ」というフレーズにネットを中心に反発が起 きたが、むしろネットのほうがオタクバッシングの書き込みにあふれた。もちろん京アニのファンを中心としたアニメファンによる追悼や非難の声の方が大きかったが、主に匿名や捨てハン(使い捨てるハンドルネームのこと)で書き込む愉快犯のオタクによる犯罪という決めつけの声も大きかったのが現実である。これは「ネットだから」で片付けるしかない毎度の事案だが、まあネットで吠えてるだけならどうでもいい連中だろう。マスコミに比べれば影響力は皆 無である。

マスコミの報道 107p

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◼️マスコミに比べれば影響力は皆無である、か。そんなことないと思うけどね。

◉そうだね。しかし、青葉容疑者の容態次第だろけど、これから裁判が起こるんだろけど、

◼️90年代以降死刑判決が増えてるっていうの知ってた?

◉さあ、知らん。先進国で死刑制度を執行しているのは日本とアメリカだけって言うのも相変わらずでしょ。

◼️そうだろね。死者の数が数だけに、極刑しかないと言うオピニオンが多数だろけど、死刑には反対だな。

◉それは以前死刑ノートで書いたから読んでちょうだい。https://imagon.hatenablog.com/entry/20180104/p1

 

◼️関係ないけど、京アニの映画がいい、素晴らしいって言う知識人とか、大西巨人の言う「俗情の結託」を感じるわけよ。多分、

◉そんな知識人いるの?

◼️知らん。

◉そんなわけで、このあたりで終わりましょう。

 

(以上 9月10日 22:00)