BALL&CHAIN 12


■ 横須賀ナンバー



ずいぶんな陽気になってきた。誰が魔法をかけたのか、宇宙意志か。・・・新宿の午後、ここぞ、いまだ、とばかりに女が薄着になっている。流し目で闊歩、酔狂で乱歩、踊りながら舞歩の多彩な歩み。かろやかに指先を絡ませて、日焼けを気にして、ビタミン剤をぶちまけて、アイスラテをこぼして、ようやく、ようやく、正気に戻ろうよ、と耳元で告げた誰にも似てないあの女。・・・正気って、どゆこと?・・しまいにはパステルカラー禁止条例出すよ!ワタシ、あれ、全然似合わないんだかラ!!・・・選択肢が増えた。どんな選択肢かわからないままに。・・・罪な陽気がそうさせた。女は言う。「春はまるごとドブに捨てろ、spring saleは売春と読め、」と。男はくしゃみをした。そして、電光掲示板を読みちがえた。・・・頭痛にはバファリンを。もっと残酷な春を。




■ ショート・バウンド


4人で野郎呑み。国分寺住まいの年配のデザイナーさん宅へおじゃました。シャレオツな邸宅だ。どれくらいシャレオツかというと、シャレとオツがじゃれあい、交尾し、それを見るにみかねたシーチキン・マイルドのフタが、突然自らカスポン!とジャンプし、浮遊するヨージ・ヤマモトの黒シャツが、フタをサッと包み隠して、そしてチュニジアへの旅が始まるくらいシャレオツなのだ。・・・それはともかく、酩酊途中に、野球をやろうということになり、当のリッチ・ハウスからSSKの金属バット1本と、ミズノのグローブ3つが出現した。しまったアンダーシャツを着てくればよかった。・・・ソフトなキャッチボールからはじまり、デザイナーさんのデザイン意志に溢れた千本ノックを受け、へとへとになり、少し休憩して、夕方から開放されている(と、こっちが勝手に決めにかかっている)スタジアムの外野部分を占拠し、トス・バッティングをした。エヴァーなグリーンだ。あのジャストミートという感覚。自分のヒットした球が、見るもすばやく遠くへ、さらに遠くへと点景化されてゆくあの感覚。ショート・バウンドの球をサッと、グローブに収めるあの感覚。これぞ大地が人類に与えた至上の球技だ。遠くへ、さらに遠くへというパースペクティヴが瞬時瞬時に組み替えられてゆく。「スポーツなんぞの・・興味は?」と聞かれて、「まったく関心ありません」と公言していて、自分でもあきれるほど興味がないのだが、球技をするのは、ためらいない。むしろ楽しい。帰宅後は呑みなおし。「有益な議論」や「情報交換」なんてセコいことはしない。いいたいことをぶちまけ、誉めるべき点を誉める。戯れではない。よく話す、よく伝えるという健康、このシンプルな原則。